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【書籍紹介】イノセント・デイズ

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    イノセント・デイズ (新潮文庫) [ 早見 和真 ]
    価格:766円(税込、送料無料) (2017/5/16時点)

     心がざわつく。この作品がフィクションとは、どうしても思えない。現実と物語の境目が見えなくなりそうだ。世の中には絶対こういう人がいる。程度の差こそあれ、誰もが一度は思ったことではないだろうか。解決のできない闇を抱えた人間は、どうやって生きていけばいいのか?多くの人間は「他人とのつながり」を持つことで解決していくのだろうが、そういったことができる人間は幸福なのだ。じゃあ、それも叶わない場合は?その答えがこの書籍にあるような気がする。

    あらすじ

    元恋人の家族3人(元恋人の妻と双子の幼児)の命を放火によって奪った確定死刑囚「田中幸乃」の人生と、そのまわりの人物たちが織りなすヒューマンドラマ。なぜ田中幸乃は死刑囚となったのか?その裏には田中幸乃の壮絶な人生が関与していた。彼女の人生は「不運」に見舞われ、自分自身では「後悔」しかなく、「あきらめ」が心を支配する。

    そんな中、ひとりの男だけが田中幸乃のことを信じ、味方であり続ける。彼の決意の裏にある確信とはいったい何なのか?何が彼を突き動かしているのか?世の中のすべてを敵に回した田中幸乃の死刑執行は、刻一刻と迫っている。

    レビュー(ネタばれあり)

    読み始めの感想は、のんびりと進む物語であるということだった。サスペンスのような衝撃的な事件描写はないし、推理小説のような知的バトルもない。ストーリーの基軸となっているのは、「過去の回想」と「現在の田中幸乃を取り巻く人物の描写」である。過去の回想では、田中幸乃が確定死刑囚となった原因が描写されており、現在では田中幸乃の人生に関与した人物たちの行動・思考が描写されている。

    この書籍で優れているのは、登場人物の心理描写であると感じる。誰もが一度は思ったことのあることや、過去の後悔などが容易に想像できる表現をしており、各登場人物に感情移入していく。没入度が高くなると、これは現実なのか、空想なのか、見分けがつかなくなってくる。そうなってくると、登場人物に対しやきもきしたり、怒りがこみ上げたり、悲しくなったりと、読み進める中で物語の起伏は大きくないが、自分自身の感情の起伏を感じる。

    全体的にのんびりとした物語であるがゆえに、間延び感は否めない。終盤に差し掛かり続きが気になる状態になってくるが、そこまではそれほどガツガツと読み進められなかった。面白くないわけではなく、田中幸乃という主人公を表現するためには、こういったストーリーが必要だったのであろう。だからこそ、終盤からの大きな巻き返しがあり、後半の100ページは一気に読んでしまった。

    読後感としては、直後は「救いがない」と思っていた。ただし、読んだ物語を反芻する中で、むしろ「救いがあった」のだと感じるようになった。ネットのレビューでも「暗い」「救いがない」というものが少なくないが、読む人によって大きく感想が変わるのは事実であろう。たとえば、これまで所謂「陽キャラ」として育ってきた人間にとっては「救いがない」と感じるかもしれない。逆にこれまで「陰キャラ」として育ってきた人間にとっては「救われた」と感じるかもしれない。

    それは、物語の軸に据えられているのが「一度は誰でも感じたことのある無力感」だからなのではないかと思う。田中幸乃が感じる無力感は、我々が感じたことのある無力感と一緒なのではないかと思う。ただ、田中幸乃の場合は、環境に恵まれなかった。何かが違えば、我々だって田中幸乃のようになってしまう可能性だってある。だから、後半の没入感は高い。

    そして、私がこの書籍について最も称賛したい部分は、「初志貫徹」をしたことだと思う。詳細は完全なネタばれになるので記載しないが、おそらく作者である早見和真氏も書き進めながら葛藤したのではないかと思う。世の中に多くあふれる「最初は悪人だが最後はヒーロー」という物語も悪くはない。かくいう私も気付いたらそういう展開を欲していた。だが、早見氏はそうしなかった。だからこそ、この物語は完結したのだと思う。逆に言うとそうしなければ完結しなかったようにも思う。

    物語全体を覆う陰鬱感があることは否定しない。だからこそ、人生の中で闇を抱えたことのある人には、心に訴えかけるものがあると思う。たまには「爽快感」とか「勧善懲悪」というエンターテイメントと離れてみるといい。きっと新しい自分と出会えると思うから。

     

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